じーん栄養講座

【過食セミナー1】過食とは何か?医学的定義と「普通の食べ過ぎ」との決定的な違い

こんにちは。栄養講座第7章「過食と栄養の科学」、最初のセクションへようこそ。

「また食べ過ぎちゃった…」 「コントロールできない自分が情けない…」 「これって過食症なのかな?それとも私の意志が弱いだけ?」

もしあなたがこんな風に悩んでいるなら、このセクションはとても大切な内容になります。

なぜなら、過食は「意志の弱さ」ではなく、脳と体の仕組みに深く関わる現象だからです。

このセクションでは、医学的に「過食」とは何なのか、どんな診断基準があるのか、そして普通の食べ過ぎとは何が違うのかを、丁寧に見ていきましょう。


過食の医学的定義:2つの重要な要素

まず、医学的に「過食」と呼ばれるものには、2つの核となる要素があります。

① 短時間での過剰摂取

「短時間」というのは、だいたい2時間以内を指します。

そして「過剰」とは、同じ状況・同じ時間内で、他の多くの人が食べる量より明らかに多い量を食べることを意味します。

たとえば:

  • 普通の食事の後、さらにパン1斤、お菓子数袋、アイス、冷蔵庫にあるもの…と次々に食べ続ける
  • 「ちょっと食べよう」と思って開けたお菓子が、気づいたら全部なくなっている
  • 短時間で3,000〜5,000kcalを超えるような量を食べてしまう

「たくさん食べた」という量だけでなく、時間の短さも重要なポイントです。

② コントロール感の喪失

これが過食の最も特徴的な部分です。

「食べることをやめられない」「食べる量や内容をコントロールできない」という感覚があること。

  • 「もうやめよう」と思っても手が止まらない
  • 「これ以上食べたらダメだ」と分かっているのに、体が動いてしまう
  • 「自分は何をやっているんだろう」という解離した感覚

これは単なる「美味しくて食べ過ぎた」とは全く違う体験です。


2つの代表的な過食障害

医学的には、過食に関連する障害として主に2つのタイプが知られています。

1. BED(過食性障害 / Binge Eating Disorder)

特徴:代償行動がない

過食をした後、「なかったことにしよう」とする行動(嘔吐、下剤の使用、過度な運動など)を伴わないタイプです。

  • 過食エピソードが繰り返される
  • 食べた後は強い罪悪感や自己嫌悪に苛まれる
  • でも、嘔吐したり下剤を使ったりはしない
  • 体重増加につながりやすい

BEDは、実は摂食障害の中で最も多いと言われています。

2. BN(神経性過食症 / Bulimia Nervosa)

特徴:代償行動がある

過食の後に、体重増加を防ぐための「代償行動」を行うタイプです。

代償行動には、以下のようなものがあります:

  • 嘔吐(最も一般的)
  • 下剤や利尿剤の乱用
  • 過度な運動(何時間も走る、ジムで何時間も過ごすなど)
  • 絶食(次の日は食べない、など)

これらの行動は、「食べたものをなかったことにしたい」という強い衝動から行われます。

しかし、これは体と心に深刻なダメージを与え、さらに過食を悪化させる悪循環を生み出します。


DSM-5による診断基準を詳しく見てみよう

DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)は、世界中で使われている診断基準です。

ここでは、BED(過食性障害)の診断基準を具体的に見ていきましょう。

【診断基準A】過食エピソードの定義

過食エピソードとは、以下の両方を満たすものです:

① 短時間での過剰な食事量

「一定の時間内(例:2時間以内)に、ほとんどの人が同じ状況で食べる量より明らかに多い量を食べること」

具体例:

  • ランチを食べた後、2時間以内にコンビニでパン3個、お菓子2袋、アイス2個、飲み物を買って全部食べる
  • 夕食後、深夜までの間に冷蔵庫・冷凍庫にあるもの、戸棚のお菓子を次々と食べ続ける
  • ファストフードでセットを2〜3人前注文して一気に食べる

② コントロール不能感

「そのエピソードの間、食べることを制御できない感覚(例:食べることをやめられない、または何をどれだけ食べているかを制御できない感覚)」

具体例:

  • 「もうやめよう」と何度も思うのに、手が止まらない
  • 「これで最後」と思って食べても、また次のものを探している
  • 食べながら「なんで私はこんなことしてるんだろう」と思っている
  • 気づいたら立ったまま冷蔵庫の前で食べている
  • 食べている最中の記憶が曖昧

【診断基準B】過食の特徴

過食エピソードには、以下のうち3つ以上の特徴が当てはまります:

① 通常より速く食べる

  • 噛まずに飲み込む
  • 味わう余裕がない
  • 「早く食べたい」という衝動

実際のクライアントさんの声: 「気づいたら口の中が痛い。噛まずに飲み込んでいるから、口の中や喉が傷だらけになっていることもある」

② 不快なほど満腹になるまで食べる

  • お腹が痛い
  • 苦しくて動けない
  • 気持ち悪い
  • でも、まだ食べ続ける

クライアントさんの声: 「お腹がパンパンで苦しいのに、なぜか安心感があって、それが怖い」

③ 身体的に空腹でないのに大量に食べる

  • お腹は空いていない
  • さっき食事したばかり
  • でも「食べたい」という衝動が止まらない

これは、生理的な空腹ではなく、心理的・神経的な欲求によるものです。

④ 一人で食べる(恥ずかしさから)

  • 人に見られたくない
  • 「こんなに食べるなんて恥ずかしい」
  • 家族が寝静まってから食べる
  • 車の中で食べる
  • トイレやお風呂場で食べる

クライアントさんの声: 「家族が寝てから台所に行って、音を立てないように静かに食べる。まるで泥棒みたい」

⑤ 後で強い自己嫌悪、抑うつ、罪悪感

  • 「また やってしまった…」
  • 「私は本当にダメな人間だ」
  • 「こんな自分が嫌い」
  • 「明日から絶対食べない」
  • 「死にたい」とまで思うこともある

この罪悪感や自己嫌悪が、次の過食のトリガーになることも多いのです。


【診断基準C】苦痛の存在

「過食について著しい苦痛がある」

つまり:

  • 過食をすることで、心理的に深く傷ついている
  • 日常生活に支障が出ている
  • 「やめたい」と強く思っている
  • でも、やめられない

これは非常に重要なポイントです。

医学的に「障害」とされるのは、単に行動があるからではなく、その人が苦しんでいるからです。


【診断基準D】頻度と期間

「過食エピソードが平均して少なくとも週1回、3ヶ月間続く

つまり:

  • 週に1回以上
  • それが3ヶ月以上続いている

ただし、これはあくまで診断基準です。

週1回未満でも、苦しんでいるなら、それは十分にサポートが必要な状態です。


【診断基準E】代償行動の有無

BEDの場合: 「過食は、神経性過食症のように、不適切な代償行動(嘔吐、下剤、絶食、過度な運動など)を繰り返し伴うものではない」

つまり、代償行動がある場合は、BNの診断になるということです。


【診断基準F】他の疾患との区別

「神経性食欲不振症や神経性過食症のエピソード中にのみ起こるものではない」

つまり、BEDは独立した診断だということです。


重症度の分類

DSM-5では、過食の頻度によって重症度も分類されています:

  • 軽度:週1〜3回
  • 中等度:週4〜7回
  • 重度:週8〜13回
  • 最重度:週14回以上

ただし、これはあくまで目安です。

週1回でも、その人が深く苦しんでいるなら、それは十分に深刻な状態です。


普通の「食べ過ぎ」との決定的な違い

ここで、とても大切な質問をしましょう。

「過食」と「普通の食べ過ぎ」は、何が違うのでしょうか?

誰だって、美味しいものを食べ過ぎることはあります。 忘年会やパーティーで、ついつい食べ過ぎてしまうことも。

でも、過食は全く違います。

違い① 頻度

普通の食べ過ぎ:

  • たまに起こる
  • 特別なイベントや状況による
  • 週に何度も繰り返すことはない

過食:

  • 繰り返し起こる(週1回以上)
  • 日常的なパターンになっている
  • 「またやってしまった」という感覚

違い② コントロール感

普通の食べ過ぎ:

  • 「美味しいから、ついつい」
  • やめようと思えばやめられる
  • 自分の意思で食べている感覚

過食:

  • 「やめられない」「止まらない」
  • 自分の意思でコントロールできない感覚
  • 「自分じゃないみたい」という解離感

違い③ 心理的苦痛

普通の食べ過ぎ:

  • 「ちょっと食べ過ぎちゃったな」程度
  • 翌日には忘れている
  • 深刻な罪悪感はない

過食:

  • 激しい自己嫌悪
  • 「自分は最低だ」という感覚
  • 抑うつ、絶望感
  • 「もう死にたい」とまで思うこともある

なぜこの違いを理解することが大切なのか?

それは、過食を「意志の問題」として片付けてしまうと、本当の解決にならないからです。

過食は:

  • 脳の報酬系の問題
  • ホルモンバランスの乱れ
  • 神経伝達物質の異常
  • 栄養欠乏
  • 心理的トラウマ
  • 腸内環境の乱れ

など、複雑な要因が絡み合って起こる現象です。

「意志が弱い」からではありません。

あなたの体と脳が、何か重要なサインを送っているのです。


このセクションのまとめ

過食の医学的定義には、「短時間での過剰摂取」と「コントロール感の喪失」という2つの核がある

✅ BED(過食性障害)は代償行動を伴わず、BN(神経性過食症)は嘔吐や下剤などの代償行動を伴う

DSM-5の診断基準は、過食エピソードの特徴、頻度、期間、苦痛の存在などを詳細に定義している

普通の食べ過ぎ過食は、頻度・コントロール感・心理的苦痛の点で決定的に異なる

✅ 過食は「意志の弱さ」ではなく、脳と体の複雑な仕組みに関わる現象


次のステップ

このセクションで、過食とは何かの「輪郭」が見えてきたと思います。

でも、きっとこんな疑問が湧いてきたのではないでしょうか?

「じゃあ、なぜ過食は起こるのか?」 「私の体の中で、何が起こっているの?」

次のセクション7.2では、過食の生理学的トリガーについて深く掘り下げていきます。

  • 血糖値のジェットコースター
  • レプチン抵抗性(満腹ホルモンの機能不全)
  • グレリンの暴走(空腹ホルモン)
  • セロトニン不足
  • ドーパミン報酬系の異常

など、あなたの体の中で実際に起こっている生理学的メカニズムを、科学的に解説していきます。

理解することが、回復への第一歩です。

一緒に学んでいきましょう。